事例紹介
シニア人材を企業成長の原動力へ~「当事者」と「受け入れ部門」双方のマインドセット改革~
株式会社アイ・エス・ビー
ミドルシニア層への研修が新たな制度設計のきっかけに
変化の激しい事業環境では、従業員が主体的にキャリアプランを考え、リスキリングに挑めるようにする体制づくりが欠かせません。
それはシニア層に対しても同様でしょう。
ただ、長年にわたり取り組んできた業務領域があり、経験・スキルに自負を持つミドルシニア層には、
新しい変化に適応するための理由を、丁寧に説明する必要があるのではないでしょうか。
システム開発を主軸としたITソリューションを展開するアイ・エス・ビーでは、
この課題を解決するためにミドルシニア層向けのキャリア研修を実施。
さらに、定年再雇用後のシニア層を受け入れる部門長側にも研修を行い、長く活躍し続けられる職場環境をつくっています。
同社では一連の取り組みによってシニア層・管理者双方のマインドセットが変化し、
研修だけでなく、新たな制度設計にもつながっているといいます。
ミドルシニア層のキャリア自律を促す秘訣はどこにあるのか。その実践知を聞きました。
それはシニア層に対しても同様でしょう。
ただ、長年にわたり取り組んできた業務領域があり、経験・スキルに自負を持つミドルシニア層には、
新しい変化に適応するための理由を、丁寧に説明する必要があるのではないでしょうか。
システム開発を主軸としたITソリューションを展開するアイ・エス・ビーでは、
この課題を解決するためにミドルシニア層向けのキャリア研修を実施。
さらに、定年再雇用後のシニア層を受け入れる部門長側にも研修を行い、長く活躍し続けられる職場環境をつくっています。
同社では一連の取り組みによってシニア層・管理者双方のマインドセットが変化し、
研修だけでなく、新たな制度設計にもつながっているといいます。
ミドルシニア層のキャリア自律を促す秘訣はどこにあるのか。その実践知を聞きました。
株式会社アイ・エス・ビー
管理本部 人事部 シニアマネージャー 加邉 徹氏
1989年にアイ・エス・ビーに入社。情報通信制御のエンジニアとして長く開発現場を経験。IEEEスタンダード(標準規格)やIoTなどの無線標準規格の研究開発に従事。その後、2019年に人事部に異動しタレントマネージメントの導入と教育企画を担う。今までの教育体系を見直し階層別研修を主軸に社員のコンピテンシー定義やスキルの見える化などを整備、シニア活躍を目的としたセカンドキャリア研修を構築。
キャリア研修導入のきっかけ
シニア層のキャリア自律に向けて「キャリア研修」を導入
当社はシステム開発を主軸とし、ITソリューションでお客さまの課題解決に貢献しています。ビジネスモデルそのものが人に基づいており、現在取り組んでいる「中期経営計画2026」においても、人事戦略を第一の重点戦略に位置づけて採用や育成を進めています。
一方、設立から50年超の歴史がある当社では50歳以上の従業員の割合が高まり、定年退職を迎える世代の人が増えていく状況にあります。ずっと同じ業界で同じ仕事をしているシニア層も多く、技術革新が目まぐるしい現在にあっては、「これまでの技術がある日突然使えない状態になってしまう」こともあり得ない話ではありません。定年後に再雇用の道が用意されていても、業界の変化に対応できる技術がなければ、第一線で活躍できなくなってしまうのです。
従来、定年退職する人は毎年片手で数える程度だったので、再雇用後にはスタッフ部門で受け入れることができました。しかし定年退職者が増え続けていく今後は、スタッフ部門の枠だけでは圧倒的に足りず、現場の第一線にいてもらわなければなりません。
とはいえ当のシニア層の従業員はこれまで、自分がこの先どんなキャリアを積むべきか、考える機会がほとんどありませんでした。
なんとなく「65歳までは働き続けられるだろう」という希望的観測を持って定年退職後の日々をイメージしていた人もいました。そこで、50歳になっても60歳になっても活躍するという意識をもってもらうために、シニア層が自らのキャリアを主体的に考えられるよう「キャリア研修」を導入しました。
研修実施のパートナーとしてパーソルキャリアコンサルティングを選んだのは、こうした当社の課題やねらいを理解し、自身も再雇用された経験を持つベテラン講師をアサインしてくれたからです。講師は受講者と同じような苦労をしており、シニア層の悩みに共感しながら、実体験に基づいて的確な問いかけをしてくれました。
一方、設立から50年超の歴史がある当社では50歳以上の従業員の割合が高まり、定年退職を迎える世代の人が増えていく状況にあります。ずっと同じ業界で同じ仕事をしているシニア層も多く、技術革新が目まぐるしい現在にあっては、「これまでの技術がある日突然使えない状態になってしまう」こともあり得ない話ではありません。定年後に再雇用の道が用意されていても、業界の変化に対応できる技術がなければ、第一線で活躍できなくなってしまうのです。
従来、定年退職する人は毎年片手で数える程度だったので、再雇用後にはスタッフ部門で受け入れることができました。しかし定年退職者が増え続けていく今後は、スタッフ部門の枠だけでは圧倒的に足りず、現場の第一線にいてもらわなければなりません。
とはいえ当のシニア層の従業員はこれまで、自分がこの先どんなキャリアを積むべきか、考える機会がほとんどありませんでした。
なんとなく「65歳までは働き続けられるだろう」という希望的観測を持って定年退職後の日々をイメージしていた人もいました。そこで、50歳になっても60歳になっても活躍するという意識をもってもらうために、シニア層が自らのキャリアを主体的に考えられるよう「キャリア研修」を導入しました。
研修実施のパートナーとしてパーソルキャリアコンサルティングを選んだのは、こうした当社の課題やねらいを理解し、自身も再雇用された経験を持つベテラン講師をアサインしてくれたからです。講師は受講者と同じような苦労をしており、シニア層の悩みに共感しながら、実体験に基づいて的確な問いかけをしてくれました。
研修の内容
再雇用者と受け入れ部署、双方が気持ちよく働ける環境づくりに向けて
キャリア研修では、まずマインドセットの変化を重視しました。対象者は45歳以上の従業員。導入当初は50代後半の、上の世代から順次参加してもらいました。
長年にわたり培ってきたマインドを変えるのは簡単ではありません。特定の業界でキャリアを積んできた方や上の世代では新たな技術を学ぶリスキリングには目は向かず、「今のままでいい」と希望する人も少なくありませんでした。それでも「将来起こり得る不都合な現実に真摯に向き合う」というコンセプトを軸に、トランジション(変化)の重要性を伝えていきました。その上でeラーニングコンテンツを充実させ、新たな技術を自発的に学べるようにする環境も整えていきました。
2023年までにキャリア研修は対象者全員が受講。これを受けて2024年からは、シニア層を受け入れる側の「管理者向けキャリア研修」も開始しています。
管理者向け研修の目的は、再雇⽤従業員を受け⼊れる部署と本人の双方が気持ちよく働ける環境づくりを実現すること。そして、再雇⽤従業員を適切に受け⼊れ、彼らが⻑期活躍できる場の構築につなげるためのヒントを得ることです。
再雇用従業員を受け入れる管理職は、彼らに対し「長年の経験を今後の業務にも生かしてほしい」と考えています。再雇用従業員本人も「自分の経験を生かしたい」と考えているので、本来なら双方の希望は合致しているはず。しかし現実には、職場内で「再雇用者は”働かないおじさん”になってしまうのでは……」というイメージを持たれてしまうこともあります。そんな誤解を払拭したいという思いもありました。
こうしたテーマの研修は印象論中心になりがちなので、プログラムの実効性が高まるよう、最新の調査結果データなどを活⽤しながら展開。グループワークやケーススタディにも取り組むことで、講義での学びを実際に活⽤し、実践のイメージを⾼めていきました。
長年にわたり培ってきたマインドを変えるのは簡単ではありません。特定の業界でキャリアを積んできた方や上の世代では新たな技術を学ぶリスキリングには目は向かず、「今のままでいい」と希望する人も少なくありませんでした。それでも「将来起こり得る不都合な現実に真摯に向き合う」というコンセプトを軸に、トランジション(変化)の重要性を伝えていきました。その上でeラーニングコンテンツを充実させ、新たな技術を自発的に学べるようにする環境も整えていきました。
2023年までにキャリア研修は対象者全員が受講。これを受けて2024年からは、シニア層を受け入れる側の「管理者向けキャリア研修」も開始しています。
管理者向け研修の目的は、再雇⽤従業員を受け⼊れる部署と本人の双方が気持ちよく働ける環境づくりを実現すること。そして、再雇⽤従業員を適切に受け⼊れ、彼らが⻑期活躍できる場の構築につなげるためのヒントを得ることです。
再雇用従業員を受け入れる管理職は、彼らに対し「長年の経験を今後の業務にも生かしてほしい」と考えています。再雇用従業員本人も「自分の経験を生かしたい」と考えているので、本来なら双方の希望は合致しているはず。しかし現実には、職場内で「再雇用者は”働かないおじさん”になってしまうのでは……」というイメージを持たれてしまうこともあります。そんな誤解を払拭したいという思いもありました。
こうしたテーマの研修は印象論中心になりがちなので、プログラムの実効性が高まるよう、最新の調査結果データなどを活⽤しながら展開。グループワークやケーススタディにも取り組むことで、講義での学びを実際に活⽤し、実践のイメージを⾼めていきました。
キャリア研修の導入効果
「これまでの得意領域を生かせる」
というポジティブな理解へ
キャリア研修を経て、参加者のシニア層からは「早い段階で考える機会を持てたことがありがたかった」という声が寄せられています。
あと5年、10年もすれば定年を迎えて再雇用になるという現実を直視し、何を準備すべきなのか、真剣に考えてくれるようになったのです。
なかには「早く準備しないと、本当に”働かないおじさん”になっちゃうな」と話している人もいました。
一方、管理者向けの研修では、参加した各部門長の中で「求めるシニア人材像」が明確化されるようになりました。その人材像を聞くと、意外にも技術・スキルより「コミュニケーション能力」や「部下育成への積極性」を重視するケースが多いことが分かったのです。
今後は、こうした部門側の考えも当事者のシニア層へフィードバックしていきたいと考えています。シニア層には部門側が求める人物像を理解してもらい、自分をガラリと変える必要はなく、むしろこれまでの得意領域を生かし続けられるのだとポジティブに考えてほしいですね。
あと5年、10年もすれば定年を迎えて再雇用になるという現実を直視し、何を準備すべきなのか、真剣に考えてくれるようになったのです。
なかには「早く準備しないと、本当に”働かないおじさん”になっちゃうな」と話している人もいました。
一方、管理者向けの研修では、参加した各部門長の中で「求めるシニア人材像」が明確化されるようになりました。その人材像を聞くと、意外にも技術・スキルより「コミュニケーション能力」や「部下育成への積極性」を重視するケースが多いことが分かったのです。
今後は、こうした部門側の考えも当事者のシニア層へフィードバックしていきたいと考えています。シニア層には部門側が求める人物像を理解してもらい、自分をガラリと変える必要はなく、むしろこれまでの得意領域を生かし続けられるのだとポジティブに考えてほしいですね。
今後の展望
シニア層は事業成長の原動力。
その実感を現場へ広げていきたい
これまで実施してきた研修には大きな手応えを感じていますが、それでもなお、シニア層のキャリア自律を促すのは簡単ではないと感じています。キャリア自律を促す制度をさらに充実させ、中期経営企画よりも長いスパンで取り組み続ける必要があるでしょう。
これから整えていきたいと考えている制度の一つに、シニア層がリスキリングの成果を生かすための社内公募の仕組みがあります。当社には現状、自己申告でジョブローテーションする仕組みがありますが、上手く運用出来ていません。新しいスキルを身につけても次のポストを描きづらいため、現在の業務の延長線上でキャリアを考えざるを得ないのです。この状況を変えていきたいと思っています。
シニア層に限らず、「これまでとは違うキャリアを積みたい」と考える従業員が社内の新たな選択肢を検討し、リスキリングを経て次のキャリアへ進んでいく。そんなシナリオが成り立つようにしていきたいですね。
従業員の主体的なキャリアプラン立案をサポートするために、2025年以降は社内にキャリアコンサルタントを軸としたキャリア相談室を設置し、個別相談に応じる体制をつくることも計画しています。シニア層も、こうした窓口があれば早い段階から利用してくれるようになるはずです。
その先には、シニア層が事業の最前線で活躍し続け、事業の成長に大きく貢献している組織を実現したいと考えています。
企業全体で見れば、シニア層のセカンドキャリアに向けた施策は、若手向けの施策と比べてどうしても優先順位を下げられがちな傾向もあるのではないでしょうか。当社にもそうした側面があることは否めません。だからこそ、シニア層が事業を活性化させているのだと現場で実感できるようにしたいのです。その声が次々と上がるようになれば、シニア層向けの施策をさらに進化させられるはずです。
(2024年10月取材)
これから整えていきたいと考えている制度の一つに、シニア層がリスキリングの成果を生かすための社内公募の仕組みがあります。当社には現状、自己申告でジョブローテーションする仕組みがありますが、上手く運用出来ていません。新しいスキルを身につけても次のポストを描きづらいため、現在の業務の延長線上でキャリアを考えざるを得ないのです。この状況を変えていきたいと思っています。
シニア層に限らず、「これまでとは違うキャリアを積みたい」と考える従業員が社内の新たな選択肢を検討し、リスキリングを経て次のキャリアへ進んでいく。そんなシナリオが成り立つようにしていきたいですね。
従業員の主体的なキャリアプラン立案をサポートするために、2025年以降は社内にキャリアコンサルタントを軸としたキャリア相談室を設置し、個別相談に応じる体制をつくることも計画しています。シニア層も、こうした窓口があれば早い段階から利用してくれるようになるはずです。
その先には、シニア層が事業の最前線で活躍し続け、事業の成長に大きく貢献している組織を実現したいと考えています。
企業全体で見れば、シニア層のセカンドキャリアに向けた施策は、若手向けの施策と比べてどうしても優先順位を下げられがちな傾向もあるのではないでしょうか。当社にもそうした側面があることは否めません。だからこそ、シニア層が事業を活性化させているのだと現場で実感できるようにしたいのです。その声が次々と上がるようになれば、シニア層向けの施策をさらに進化させられるはずです。
(2024年10月取材)