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ミドルシニア人材のキャリア支援に必須の「学び自律」とは?
キャリア開発研究者・高橋俊介氏に聞く

近年、政府がリスキリングへの公的支援を表明するなど、ビジネスパーソンの学び直しや主体的なキャリア形成は日本全体の課題となっています。しかしその一方で、社員の学び直しの支援に頭を悩ませる企業は少なくありません。

特にミドルシニア人材は、学び直しに抵抗感を持つことも多く、研修プログラムなどを一方的に提供するだけでは、主体的なキャリア形成を促すのは難しいです。企業はいかにして効果的にミドルシニア人材の学び直しを支援し、新たなスキル習得やキャリア意識の醸成を促していけばよいのでしょうか。

慶應義塾大学 SFC研究所 上席所員の高橋俊介氏は、今こそミドルシニア人材に「学び自律」が必要だと訴えます。「学び自律」とは何か、そして企業がミドルシニア人材に「学び自律」を促すには何をすべきか。高橋氏にお伺いしました。

「21世紀型のキャリア形成」に必要不可欠な「学び自律」

高橋さんは近著『キャリアをつくる独学力』(以下、本書)のなかで「学び自律」の重要性を指摘されています。まずは「学び自律」とは何か、ご説明いただけますか。

高橋(以下略):私は元々組織人事コンサルタントだったのですが、数々の日本企業の組織課題に直面するなかで「日本企業が変わるためには、働き手が主体的にキャリア形成しなければならない」と考えるようになりました。そこで、2000年から慶應義塾大学 SFC研究所でキャリア開発の研究を開始。さまざまなインタビュー調査やアンケート調査を重ねるなかで、今の時代に働き手が主体的にキャリア形成するためには「主体的な学び」が必要不可欠だと分かりました。

20世紀と21世紀ではキャリア形成のあり方が大きく異なります。20世紀において、キャリア形成の本質は「天職を見つけること」とされていました。自らの職能に適した職業に就くために、試行錯誤を繰り返すことが重要だったわけです。しかし21世紀になり、社会変化が激しくなり、生涯にわたって同一の職業に就ける保証がなくなりつつあります。

そうしたなかで、キャリア形成の本質は、ジョブマッチングに主眼を置く「静的な均衡状態を目指すこと」から、「常にダイナミックに変化する社会のなかで、継続的かつ主体的に仕事や学びに向き合うこと」に変化しました。

言い換えると、21世紀におけるキャリア形成とは、自らのキャリアのレジリエンス(回復性、弾力性・しなやかさ)を高めることです。これまで積み上げてきたキャリアが、外的環境の変化などにより崩壊したとしても、新たなキャリアを切り開けるような素地を養うことが大切なのです。そのためには、自ら学びや仕事の「Why(なぜやるか)」「What(何をやるか)」「How(どのようにやるか)」を定義して、主体的に取り組まなければいけません。これが「学び自律」と「仕事自律」です。そして、「学び自律」と「仕事自律」の好循環が「キャリア自律」を可能にします。

「学び自律」のためには、具体的に何をしたらよいのでしょうか?

端的に言えば「学び自律」とは「独学」のことです。独学といっても「我流」とは異なります。「なぜ学ぶのか」「何を学ぶのか」「どのように学ぶのか」を自ら定義し、学びに主体的に向き合うことが独学の本質ですから、必ずしも自分ひとりで知識習得やトレーニングにのぞむ必要はありません。例えば「なぜ学ぶのか」「何を学ぶのか」「どのように学ぶのか」を自ら定義できていれば、教育機関に通ったり、専門家に指導を受けたりすることも独学と言ってよいと私は思います。

独学に取り組むうえでのポイントは、これまで自分自身が主体的にテーマを決めて、学んできたことを思い返し、整理することです。過去の経験を起点に、学びへの内的動機を膨らませていくことで、「なぜ学ぶのか」「何を学ぶのか」「どのように学ぶのか」が明らかになっていくはずです。

また、思い当たるような経験がなければ、現在の仕事に着目するのもいいでしょう。顧客により良い技術やサービスを提供し、関係性をアップグレードするためには何を学ぶべきかといった視点で、独学の内容や手段を決めていきます。このように、独学への向き合い方は一つではなく、多様なアプローチがあり得ます。

ミドルシニア人材にこそ「学び自律」が必要な理由

昨今、ミドルシニア人材の学び直しにも注目が集まっています。高橋さんはミドルシニア人材の「学び自律」について、どのようにお考えですか。

私は10年以上前から、さまざまなメディアで「このままではバブル入社世代があぶない」と警鐘を鳴らしてきました。バブル入社世代は現在のミドルシニア人材に当たりますが、私が実施してきた調査などをみても、彼らは後の世代に比べて仕事への目的意識や主体性が乏しいと言わざるを得ません。

バブル入社世代は、キャリアのすべてを会社に任せてきた最後の世代だと言えます。後の世代は良くも悪くも「家庭を大事にする」「会社に人生を預けない」といった価値観が根強いです。しかしバブル入社世代は、これまでキャリアや学びを組織に委ねてきたために、主体的なキャリア形成を求められても対応できず、場合によってはストレスで心身に不調をきたしてしまうこともあります。その意味で、ミドルシニア人材の「学び自律」は、近年極めて重要なテーマです。

ミドルシニア人材が「学び自律」を高めていくということは、企業内のキャリア形成に効果があるということでしょうか。

社内でのキャリア形成以外にも、大きな効果があると思います。例えばこうしたケースも考えられます。

最近聞いた話なのですが、とある大手企業で働く50代のマネージャーが、世界最大のワイン教育機関「WSET」の認定資格を取得したそうです。その方はマネジャーとしての地位は確立しているものの、経営幹部への道は難しそうに見え、キャリアアップに対するモチベーションを失いつつありました。そこで、海外赴任経験で養った英語スキルを活かして、趣味であるワインの国際認定資格の勉強を始めたといいます。

ここにも「学び自律」が必要な理由があります。仮に次のキャリアが描きにくくても、仕事や人生に主体的に向き合うために「学び自律」を実践しているわけです。キャリア展望や出世の有無に関わらず、ミドルシニア人材は「学び自律」によって活性化すると思います。

1on1などのキャリア面談で5年後、10年後のキャリアゴールは「聞かない」

企業がミドルシニア人材に「学び自律」を促すためには、何をすべきでしょうか。

いくつか具体的な方法はありますが、まずは1on1などのキャリア面談で「10年後のキャリアゴール」を尋ねないことです。

変化の激しい社会においては、そもそも10年後に何が起こるか予想できませんし、望んだ仕事が無くなっていることもあります。そうした時代に10年後のキャリアゴールを設定して、それを目指すようなキャリア形成は無意味だからです。

今、企業がキャリア面談で行うべきなのは「今の仕事をどう思っているか」といった対話を通じて、働き手に「その仕事の価値を高めるためには何を学ぶべきか」を気付かせることに他なりません。そのうえで、学び直しのセミナーを提供したり、組織内で学びの成果を共有するコミュニティを設けたりして、働き手の「学び自律」を促していくべきです。

そもそも、中長期的なキャリア形成は、上司と利益相反することが珍しくありません。働き手が「10年後のキャリアを考えて社外活動や副業をしたい」と言ったとして、それが必ずしも上司にとって都合が良いとは限らないでしょう。だからこそ、今の仕事にフォーカスし、その価値を高めるために必要な学びを促すのが有効です。

キャリア形成の支援において「組織と働き手の利益相反」は注意すべきポイントに思えます。

そうですね。これからの組織は、働き手と利益相反が少ない、自社独自の「キャリア自律モデル」を築いていく必要があると思います。ただし、いくら組織が力を注いでも利益相反を取り除けないケースもあります。例えば、信頼が置ける上司であっても、プライベートの悩みは相談しにくいものです。自身の病気や親の介護、家庭の不和などを打ち明けるのはなかなか難しいでしょう。

そうした場合には、中立的な存在であるキャリアコンサルタントを活用するのがよいですね。大企業であれば、組織内に複数名のキャリアコンサルタントを養成するべきですし、それが難しければ外部の専門家の力を借りるとよいでしょう。

最後に、企業の人事部門に向けて、メッセージをお聞かせいただけますか。

私は以前から「上司スーパーマン仮説」を提唱しています。従来、日本の組織は、戦略・ビジョン構築やオペレーション、部下のモチベーション管理やキャリア形成などのあらゆる責任を、管理職である上司に課してきました。しかし、それらをすべて完遂できるスーパーマンのような人材はいませんし、そうした「タテ型」の閉じた組織では、働き手に自律的なキャリア形成は促せません。

「学び自律」によって働き手の自律的なキャリア形成を促し、自律的な組織を築くためにも、上司の仕事を分解して、組織内外の専門家に権限を委ねる「ヨコ型」の組織に生まれ変わる必要があります。今、組織が取り組むべきは、それを実現するためのインフラや仕組みを作ることでしょう。

ただし、一からの組織変革は時間もかかります。まずはキャリア面談で「将来」ではなく「今」についてコミュニケーションを取ること、そして社内外のキャリアコンサルタントなど専門家の力を借りることから始めてはいかがでしょうか。

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