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「ミドルシニアの行動変容率76%」。NTTコミュニケーションズの「上司から見た変化」へのこだわり

2021年4月に70歳までの雇用が努力義務化され、ミドルシニア人材の活性化がますます注目を集めています。
ミドルシニア人材が会社の重要な戦力となる時代。会社としてどのようにミドルシニア人材と向き合い、キャリア自律を支援すべきなのか。そう頭を悩ませている経営者・担当者も多いのではないでしょうか。
そんなミドルシニア人材の活性化やキャリア自律に関して、いち早く取り組みを進めているのが、NTTコミュニケーションズ株式会社です。なぜ早期からミドルシニア人材に着眼し、活性化やキャリア自律を支援しているのか。取り組みの先頭に立つ、キャリアデザイン室の浅井公一氏に伺いました。

40代は「若手社員」50代は「中堅社員」と呼ばれるような時代が来る

はじめに、浅井さんの経歴や現在の業務内容を教えてください。

浅井(以下略): 私は弊社で労働組合の幹部を長く務めたのち、2013年に現在の部署に配属され、ミドルシニア人材のサポート事業を始めました。
私たちキャリアデザイン室は新入社員や中堅社員など全年齢層の研修をサポートし、面談を行いますが、ミドルシニア人材、とりわけ50歳以上の非管理職へのフォローを重視しています。

御社は早期からミドルシニア人材に目を向けていることで知られています。
その背景について伺いたいです。

全社員に対するミドルシニア人材の割合が以前から高く、業績悪化に対して何らかの改革が必要だったからです。
弊社は1999年のNTT再編時、平均年齢38歳の1万人でスタートしました。その後社員の平均年齢は44.5歳に上昇(2018年4月時点)し、40歳以上の社員が約7割を占め、弊社のボリュームゾーンになっています。2014年当時、増え続けるミドルシニア人材に対してアプローチしないと、会社の業績がさらに悪化するのではないかと危惧されていました。

先ほど「50歳以上の非管理職をフォローしている」と伺いました。
ミドルシニア人材の中でも、なぜこの年代にアプローチしているのでしょうか。

一般的に「ミドルシニア人材はモチベーションが低い」と言われがちだが、事実だろうか。そう考えて着任早々、ミドルシニア人材に対してモチベーションなどに関する調査を実施しました。するとミドルシニア人材の7~8割は「モチベーションが維持できている」という結果が。
ただし課題だったのは、管理職は仕事のパフォーマンスが維持できているのに対し、非管理職のパフォーマンスは低下していたことです。ならば非管理職のパフォーマンスを上げれば、会社に必要な人材になるはず。そう考えて、50歳以上の非管理職を積極的にフォローするようになりました。

御社はミドルシニア人材の「キャリア自律」も重視しています。
その理由は何でしょうか。

理由は2つあります。まず今後「定年70歳制」が実施されたら、40代は若手社員、50代は中堅社員と呼ばれるような時代が来ます。そうなるとミドルシニア人材に求められる仕事は、今の比ではありません。自律して目的意識を持ちながらスキルを磨き、会社や社会で必要とされる人材にならないと、会社・社員本人とも困るからです。
次に「人生100年時代」と言われますが、男性の健康寿命は72歳程度。定年が70歳になると、健康な状態で老後を楽しむ時間がほとんどありません。そのため現役時代の幸福度を上げることが幸せな人生に直結します。
仕事における幸福度を上げるために必要なことがキャリア自律。キャリア自律ができる人は会社に貢献し、周囲から重宝されて「自分は幸福だ」と感じられるからです。定年まで幸せに生きるために、キャリア自律は不可欠だと考えています。

浅井×NTT流 ミドルシニア人材のキャリア自律への取組み

ミドルシニア人材について、具体的にどのような内容でキャリア自律を支援していますか?

主には「キャリアデザイン研修」の受講と、その1カ月後に実施する「キャリア面談」の2つです。キャリア面談は50歳になった非管理職に対して、マンツーマンで徹底的に行います。
キャリア面談の目的は、通常業務に対して自律的に取り組めるようにすること、人生トータルで幸福度の高いキャリアデザインを構築することの2点です。これらを達成しながら、ミドルシニア人材がポジティブに変化する「行動変容」を導いています。

取り組みの「成果指標」は何でしょうか?

弊社が成果指標としているのは「行動変容」、KPIとして設定しているのは「行動変容率」です。行動変容を重視する理由は、面談によってキャリアへの意識が変わったとしても、実際の行動が変わらなければ意味がないから。
特に今後は現役時代が長くなるため、時代の変化に対応する力を備えなければならない。だからこそ行動を変えて、変化を習慣づける必要があるのです。
またKPIではありませんが、キャリア自律した従業員の数や昇格者数、業績評価の変化なども集計してデータ管理しています。

ミドルシニア人材が行動変容を起こすまで、どのようにアプローチしていますか。

「このままで良いのだろうか?」と思っているミドルシニア人材が行動変容を起こすまでは、ざっくりと次のような流れで進んでいきます。
面談する側は、このような行動変容を想定しながら長期的にサポートします。ステップ1では面談者に問題提起を行い、ステップ2~3では迷う面談者に対して意図的に答えを教えないよう徹底。そしてステップ4以降では面談者の自問自答が極力スムーズにいくようアシストしながら、最終的に定量的な目標へ着地させるまで面談を続けます。

最終的に引き出す「定量的な目標」の例を教えてください。

例えば経理担当者であれば、「後輩に積極的に関わる」という曖昧なものではなく、「後輩を集めて第3水曜日に決算勉強会を実施する」などです。その後、私たちから第3水曜日に電話して、予定通り勉強会を実施したか確認する場合もあります。
相手のコミットを引き出すポイントは、目標を自分の口から言わせることです。しかし1回の面談でたどり着ける境地ではないので、何度も面談を重ね、最長10時間半かけて目標を引き出したこともあります。
大企業は雇用が安定しているため、長く在籍した社員ほどキャリア自律できていない傾向を感じます。ですが、今自律できなかったら、会社の「お荷物」になってしまう可能性があり、それは会社も本人も望むことではないでしょう。そのため、シニアの入り口のタイミングで必要な時間をかけてフォローしています。

行動変容のメリットを示し、上司から「行動変容した」と言われるまでサポート

他に、行動変容を起こすために意識しているコツはありますか?

主に2つあります。まず「投げっぱなしで終わらせないこと」です。私たちは各人の面談後に、その上司宛にフィードバック所感を送付しています。面談時の様子をかなり事細かに記載しているため、面談時間よりも所感作成時間の方が長いかもしれません。それほどフィードバック所感に力を入れています。
フィードバック所感を送付する理由は、上司が気づいていないであろう部下の要望や能力などを知らせること、行動変容を定着させるために上司を巻き込むことの2点です。そして面談3~4カ月後、上司に該当社員が行動変容したかを確認します。第三者からの「変化した」という言葉を受けて初めて、各人の「行動変容が起こった」と認定しているのです。

もう1つのコツも教えていただけますか。

ミドルシニア人材に対して、行動変容やキャリア自律によって得られるメリットを提示することです。
ミドルシニア人材は、定年までの時間が長くても10~15年ほどしかありません。一から新しい分野の第一人者になりたいと思っても、3年から5年かけて学んだら、残り数年しか活かせない。これでは勉強する意欲も湧かないですよね。がんばった先に得られるメリットがデメリットを上回らなければ、行動が変わらないのです。

ミドルシニア人材が行動変容するメリットとは何でしょうか。

1つは収入面でのメリットです。多くのミドルシニアは、再雇用後には給与が約1/3になります。でも新しいスキルを磨いて、再雇用に加えて兼業すれば、再雇用前の収入をキープできるかもしれません。
もう1つは幸福度に関するメリットです。幸福度は小さい変化であっても向上させることが可能です。例えば、これまで口数の少なかったミドルシニア人材が、部署内で毎日挨拶するようになったところ、チームにコミュニケーションが生まれてポジティブな雰囲気になったという事例があります。
小さな変化は外側から気づきにくいかもしれませんが、社歴の長いミドルシニア人材だからこそ周囲に与える影響は大きい。そしてチームメンバーの役に立つことで、日々の業務にやりがいを持てるようになります。これをメリットと捉える方は大きく変化します。

現在は取り組みに成功していると思いますが、これまで何か失敗した取り組みもあるのでしょうか。

弊社のKPIは行動変容率だけなので、明確に失敗したとはいえないのですが、課題を感じて終了した取り組みは2つあります。
1つは、社員のキャリア自律を支援できるマネージャーの育成です。マネージャーに支援能力がつけば自律者がさらに増えるのではないかと考え、手を挙げた25名のマネージャーに3日間の研修を実施しました。しかし実際に能力が定着したのは4人だけで、残りの21人は「支援したいけれど、業務が忙しくて手が回らない」とのこと。それが「できない理由」か「やらない理由」かが分析できなかったため、取り組みは終了しました。
もう1つは、今がんばっているミドルシニア人材向けの、ワンランク上のキャリアデザイン研修です。参加者を募集したところ多くの応募がありましたが、「今がんばっている」の明確な定義ができず全員を参加させたため、効果的な研修ができませんでした。
これらの反省から、何か新しい取り組みを行う際は、綿密に設計してから実施するようにしています。

成功者を真似しない!組織に即したキャリアデザインを

取り組みの結果、行動変容率やキャリア自律した人材の割合はどのように変化しましたか。

2014年~2020年で行動変容がみられた従業員の割合は76%に上りました。また、キャリア自律した従業員の割合は、元々わずか1.5%だったのですが、今では26%に上昇しています。
50代の昇格者数は約3倍に増加。弊社は若手の方が昇格する傾向が強いため、50代の昇格者が出るのは喜ばしい結果です。また業績評価も全体で1ランクアップしています。これらの結果から、業績に貢献できるミドルシニア人材が増えたといえます。
この取り組みを始めた当初は、賛同してくれた4部署のキャリア面談からスタートしています。するとその4部署から昇格者や業績評価の上がる社員が出るようになり、その後全社的な取り組みへと発展しました。反対意見も多かったのですが、あのとき面談を始めて良かったと思います。

これからミドルシニア人材の活性化に取り組む場合、どうやって進めたらよいのでしょうか。他社の成功事例をそのまま真似ても問題ありませんか?

他社の成功事例はあくまでも参考程度に留めた方が良いでしょう。特定のダイエット本を読んでダイエットに成功する人が少ないように、他社のやり方が自分の会社に合うとは限らないからです。
例えば世間的には「傾聴」が重要視されていますが、弊社は受け身体質の社員が比較的多いため、私が積極的に話さないと相手から言葉が出てこないこともあります。よって弊社では傾聴は御法度です。自社に合った取り組みを模索するべきだと思います。
弊社も引き続き、自社に合った施策でミドルシニア人材の行動変容を促し、キャリア自律する人材を増やしていきます。多くのミドルシニア人材が幸福な現役時代を過ごし、定年後に再雇用以外の選択肢も持てるようになったら嬉しいですね。
※参考資料:田中研之輔、浅井公一、宮内正臣(共著)「ビジトレ 今日から始めるミドルシニアのキャリア開発」(金子書房、2020年)

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