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〈キャリア自律〉推進の落とし穴
-ミドル不活性化を乗り越える自律推進モデルと最新事例-【セミナーレポート】

パーソルキャリアコンサルティングは、ミドルシニア人材の活性化やキャリア自律に関するセミナーを定期的に主催しています。先日はオンラインにて「〈キャリア自律〉推進の落とし穴 -ミドル不活性化を乗り越える自律推進モデルと最新事例-」を開催しました(2022年1月28日)。

セミナーでは全編にわたり、パーソル総合研究所 シンクタンク本部 上席主任研究員 小林 祐児氏が講義。これからの社会において高齢化と共に課題となっている「ミドルシニア人材のキャリア自律」について、実例を用いながら参加者と共に考えを深めました。本記事ではその内容をまとめてお伝えします。

ミドルシニアの「キャリア自律」がうまくいかない理由は?その背景から紐解く

昨今、「キャリア自律」という言葉を耳にすることが増えています。しかし「キャリア自律が大切ということはわかるが、組織の中で推進するのは難しい」「実務的にどう取り入れるのが望ましいのかわからない」という企業担当者も多いのではないでしょうか。

 

キャリア自律はすでに20年以上も叫ばれている

これまで「キャリアの捉え方」は長い年月で変化をしてきましたが、21世紀に入り「キャリアこそ、企業や人にとって”財産”」という考え方が世界的に主流になってきました。

日本においても1997年以降、「組織には頼れない」「キャリア自律をしよう」と叫ばれてきています。そんななか、キャリア関連の組織体制作りは各企業で推進された一方で、カウンセリングの機能増強は全く進みませんでした。

パーソル総合研究所による「企業のシニア人材マネジメントに関する実態調査」(下図)でも、「キャリア開発」の担当部署が設置されてきたのに比べて、「カウンセリング機能増強が進んでいない」ことがわかります。

 

ミドルエイジ以降「キャリアを考える機会から遠ざかる」

下図は企業でのキャリア構築の諸施策における、課題や問題点を表しています。

「定年後のことを考えた際に、50代の初頭で研修や人事政策を促す企業が非常に多い」と小林氏は解説します。しかし、50代に差し掛かってからいきなりキャリアパスを動かすには限界があります。また、キャリア研修を実施するにあたり、50代に入ってから積極的に実施をすると逆効果になることも。

実際に小林氏は「久々に人事に呼び出されると『そろそろ引退を考える時期なのか?』『もうポストオフに向けてチューニングしなきゃいけないんだ……』と、引退モードを告げられたように感じてしまう人がしばしばいる」と語りました。

 

欧米諸国と比較して「日本に足りていない機能」とは

実は日本企業がキャリア自律を促進するには、構造的に難しい点があるのです。日本の雇用社会には、下記の図に列挙しているとおり、企業横断的な賃金相場や労働組合、職業資格、そして教育制度という4つの機能が欠けています。

欧米諸国においては、これらの機能が相関的に交わることでキャリア構築に寄与している一方で、日本社会にはこのはたらきが圧倒的に足りていません。「そもそも企業横断的なキャリア観も築きにくい状態」だと、小林氏は指摘しました。

 

ただし現状の日本社会では、高齢化によりミドルシニア人材が急増している状態。このまま仕組み変革がされないままだと、ますます「キャリア自律」が進まず構造的に立ちゆかなくなってしまいます。

 

とはいえ、自社の従業員や経営陣と、これら変革についての議論をすすめるには、まだまだ課題が多いのが現実。セミナー出席者からは「管理職の対話力」「社内のスキル、職種の可視化」「研修後のアクションに繋がらない」「経営者自身の改革アクションがハードルになる」「自律概念自体の社内浸透、自律後の仕掛け」などという悩みの声が聞こえました。

 

キャリア自律を高めることで享受できるメリット

ではキャリア自律を高めることによって、どのようなメリットがあるのでしょうか?

まず、「キャリア自律をしている状態」についてですが、以下のような自社のキャリアを主体的に形成する意識を持っていること、実際キャリア開発に取り組んでいること、そして意識と行動両方を見ていることを指します。

そして、パーソル総合研究所 「従業員のキャリア自律に関する定量調査」によると、このキャリアの自律度合いは、男女共に20代をピークに下降していくことがわかります。これらの結果は職種別でも差が見られています。

その上で、キャリア自律を高めると、企業にとってどんなメリットがあるのか?小林氏は「キャリア自律が高まると、仕事で良いパフォーマンスを出し、ワーク・エンゲイジメントが高まっています。さらに、仕事充実感や人生満足度も高くなることがわかっています」と語ります。

また、従業員の「会社へのコミットメント」や「会社満足度」と比較しても、「キャリア自律」はさまざまな方面でプラスの影響を与えています。

上記の表から、「個人パフォーマンス」や「周囲支援行動」などは、「会社へのコミットメント」や「会社満足度」よりも「キャリア自律度」に影響されて向上していることがわかります。キャリア自律の効果は無視できないものなのです。

キャリア自律を育てる「ビオトープ・モデル」

いったいどのように従業員の「キャリア自律」を高めていくことができるのでしょうか。

 

昨今のキャリア自律促進は、「啓発活動やロールモデルなどに頼りすぎている」と小林氏は警鐘を鳴らします。なぜならロールモデルと自分とに距離があると、お手本は影響どころかむしろネガティブ要因になり得るからです。

 

こうした結果から、キャリア自律は「啓蒙的な意識改革」だと思わず、「育てるもの」だと考えた方が望ましいと考えられます。

 

調査から得られた気づきや発見 をまとめるものとして紹介されたのが「ビオトープ・モデル」という考え方です。

ビオトープとは、生き物が生息していく、ひとまとまりの生態系や生物群系のこと。これをキャリア自律に当てはめて解説していきます。

 

「キャリア自律のビオトープ」とは、まず土壌に「お互い尊重しあう企業風土」があり、そして根張りの部分が「組織目標と個人目標や、組織が目指しているビジョンと自分の方向性が関連している状態」になることが重要です。

 

さらに添え木のような役割として「組織内の職務、ポジションの透明化」があり、キャリアを成長させるための目安となります。

 

その上には、日光が注がれます。これは成長による見返りがわかるように、という意味で「処遇の透明性」の明確化を指します。そして最終的には発芽をし、「キャリア意向を周囲に表明する機会」が増えていく。キャリア自律は、「自律せよ」というお説教ではなく、こうしたビオトープのような「環境整備」によって進められる必要があります。

 

具体的な解決策「対話型ジョブ・マッチングシステム」

このビオトープ・モデルを具体的に企業施策に落とし込んでいくフレームとして挙げられたのが、「対話型ジョブ・マッチングシステム」です。

「対話型ジョブ・マッチングシステム」とは、極めて不足している「キャリアについての対話の機会」をベースとして、従業員の意思を喚起し、社内の職務やポストとのマッチングを行っていくシステムです。異動配置が企業主導で行われ続けたことにより、これまでは従業員側にキャリアへの意思が生まれにくい状態とも言えました。この状態を改善し、社内の流動性の質を変えていくことが狙いです。

 

この仕組みで異動配置の主導権を変えていくとともに、事業部側では、ポジションや仕事、ジョブ、キャリアパスの「見える化」が必要となります。具体的なキャリアパスが見えない状態では、いくらキャリア自律を促しても絵に描いた餅です。

 

昨今、社内・社外副業、公募型異動などが流行していますが、全体としてうまく機能してる企業はほとんどありません。「事業部」側と「タレント・マネジメント・システム」側とがうまく連動していないからです。対話型マッチングシステムのような「全体像」を描いて各施策を進めることで、ようやく各施策が有機的につながる、と小林氏は言います。

キャリア自律は従業員の流出を促すのか。その施策に必要な要素

最後に、企業のキャリア自律推進で避けて通れないのが、自律意識が高まることで従業員の流出や離職につながってしまうのではないかという懸念です。このキャリア自律がどんどん促進されると、優秀な人材はいったいどう行動変化をしていくのでしょうか。

 

下図の通り、自身について「市場価値が高い」と思っている人は、キャリア自律ができているほど転職意向が高まることがデータからわかります。しかし「市場価値が低い」と思っている人は、キャリア自律が高まると内へ内へと意識が向き、転職意向が低下するのです。

年代別に見ても、キャリア自律の意識が高くないミドルシニア世代は、「キャリア自律度を高めたら、より内部に人がとどまる」傾向が強いこともわかっています。

 

つまり、キャリア自律を通じてミドルシニア層の不活性化を防ぎたいのであれば、「ミドルシニア世代の市場価値を高める施策」と「キャリア自律の支援」を合わせて行っていくことが重要になります。

 

例えば下図のように、若年層には社内で視座を上げるタイプの施策、ミドルシニアには閉じがちな視線を「外」に向けることができるような施策を振り分けることなどが考えられるでしょう。

これからの時代で必要なことは、啓蒙やロールモデル、お手本などの「過去の成功に基づいた個人単位の支援策」ではないと考えます。組織風土から企業と個人のビジョン共有、組織内職務の明確化、処遇の透明性、そして組織と人材をマッチングする機能など、人材マネジメント全体を構築していくことが必要です。

 

そしてミドルシニア人材は特に、市場価値を高める施策とキャリア自律支援とを併せて実施することで、より今後キャリアの選択肢が広がる可能性があります。ミドルシニア人材のキャリア自律への取り組み方、取り組み姿勢がより明確になった時間でした。

 

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