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キャリア自律とは?
支援のメリット、課題や企業事例を解説

近年、少子高齢化など労働力不足が問題視され、2030年には644万人もの人材が不足すると予測されています。

さらに、70歳までの雇用確保が努力義務化され定年年齢や定年後再雇用期間が伸びて企業の人員構成が高年齢化し、新型コロナウイルスや技術革新による働き方が大幅に変わるなど、労働環境や社会の急速な変化に伴って、従業員の生産性向上の取り組みに注目が集まっています。

その中で特に、日本企業の人員構成の中で大きな割合を占める中高年社員(ミドルシニア世代)の活性化は、企業にとって取り組むべき課題として重要性が年々高まっています。

年功序列型の賃金制度、職務変化への適応の難しさ、モチベーションの低下、年上部下へのマネジメントの困難さなど、人事制度から職域開発、マインドチェンジ、スキルアップとミドルシニア世代の課題は複雑に絡み合っているため、明確な解決策を見出せている企業は多くありません。

変化が激しい時代だからこそ、組織から与えられるキャリア観だけではなく、従業員が自らキャリアについて考える「キャリア自律」への理解を深める必要性があります。

本記事内では、社員のカウンセリングやキャリアプラン形成についての担当者に向けて、「キャリア自律」のメリットや具体的な方法、事例について説明をしていきます。

ミドルシニア世代の活性化や、キャリア研修の在り方に疑問点のある方は、ぜひ最後までご覧ください。

 

キャリア自律とは

そもそも「キャリア自律」とは、個人がキャリアについて自分なりの考えを持ち、自身の力でキャリアを切り拓くことを意味します。

これまでのキャリア観の多くは、終身雇用制度や年功序列の賃金体系の影響を受け、同じ会社で昇進していくキャリアモデルでした。企業を横断してキャリアを築いていく欧米に比べ、産業別労働協約などの協約賃金や、産業/職業別組合による共通職業資格など、企業横断的な取り組みが少ない日本の社会的背景もあって醸成されてきました。

一方で、2022年のパーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査」では、管理職になりたい人の割合が日本では19.8%と調査した18か国の中で最も低いというデータが出ており、同一企業で昇進していくキャリアモデルに限界を感じます。

企業や組織に依存しない「個人のキャリア形成」に対して、文部科学省が、初等中等教育など早期の段階で「一人ひとりの人生の在り方について考える教育」を、厚生労働省が「セルフ・キャリアドッグ」を展開し社会人に対してのキャリアアップ・キャリア形成を推進するなど、行政によるキャリア形成支援の動きが活発化しています。

こうした情勢の変化もあり、企業側も個人のキャリア形成に対して支援する動きが増えてきました。

 

キャリア自律が必要とされる背景とは

なぜ、キャリア自律が必要とされ始めているのでしょうか?

1.労働力人口の減少

冒頭でも述べたように、近年労働力人口が減少しています。それに伴い、成長を維持していくためには1人あたりの労働生産性を上げる必要があります。

労働需要7073万人に対して、労働供給6429万人

【出典】パーソル総合研究所×中央大学「労働市場の未来推計 2030」

時代の流れや技術革新、激しいビジネス環境の変化にあわせて、求められるもの・仕組み・サービスが日々進化する、将来の予測がつかない時代となりました。

企業も個人もその変化に柔軟に対応していく必要があり、労働生産性を高めるためにも、受け身の姿勢ではなく自ら考え行動できる社員が求められています。

その結果、一人ひとりの能力開発を進めるとともに、自ら学び行動することができる主体的な社員を育成することを目的とした「キャリア自律の支援」が注目されています。

2.雇用形態の多様化

正規のフルタイム雇用だけでなく、契約社員や時短勤務などフレキシブルな雇用形態やテクノロジーの進化による副業や独立起業の増加など、個人が選べる雇用形態が多様化しています。

近年、多くの企業は個人の多様な雇用形態のニーズに対応していくことで、優秀な人材を獲得し、競争力を高めていく取組みを始めています。

また、「少子高齢化に基づく労働力不足」「終身雇用制度の崩壊」「社会経済の不透明感」など日本型雇用システムの限界から、メンバーシップ型の雇用からジョブ型雇用へ転換する動きも活発化しています。

ジョブ型雇用とは、人材を採用する際に職務内容を明確に定義して雇用契約を結び、労働時間ではなく職務や役割で評価する雇用システムです。役割や職務が明確になることにより、企業を横断してキャリアを築きやすく、個人がキャリアを考える重要性が高まっています。

3.労働者の価値観の変化

最後に、労働者の価値観の変化も、「キャリア自律」が注目される背景と考えられます。

従来の安定した終身雇用に対する期待が薄れ、自己成長や達成感を求める傾向やワークライフバランスの重視など、技術の進化や業界の変化など不確実性が増している状況の中で、労働者の価値観は変化しており、キャリア自律の重要性を浮き彫りにしています。

パーソル総合研究所の「働く10,000人の就業・成長定点調査」によると、会社を辞めて独立したい人の割合は、男性20代前半で最も高く、2017年に20%であったのが、2022年には31%まで上昇。

一方で、男性の40代以上や女性では横ばい傾向、現在の会社に定年まで勤めたいと考える人が減少していることが分かります。その他の調査結果として、社会貢献する活動をしたり、知識やスキルが得られるといった「自己成長」に関する項目が上昇する傾向がみられます。

キャリアを考えるということは、自分自身の価値観に合致する働き方を実現するための重要な手段となっています。

 

キャリア自律支援の効果とは

では、キャリア自律を支援することで、どんなメリットがあるのでしょうか?以下、2つのポイントをチェックしてみてください。

1.ワーク・エンゲイジメント、学習意欲、仕事充実感が高まる

まず1つ目は、社内でのはたらく意欲を喚起することができることです。

キャリア自律度が高い層は、低い層に比べて個人パフォーマンス(自己評価)やワーク・エンゲージメント、学習意欲、仕事の充実感が高く、人生満足度が高いというデータが出ています。

個人のパフォーマンス1.2倍、ワーク・エンゲージメント1.27倍、学習行く1.28倍、仕事の充実感1.26倍、人生満足度1.19倍の性ある

【出典】パーソル総合研究所「従業員のキャリア自律に関する定量調査 調査結果」

キャリア自律度が高い従業員が、自分の興味や専門分野に基づき集中して取り組むことで、新たなアイデアやアプローチが生まれやすくなり、組織全体の生産性が向上したり、新しいビジネスが生まれるなどのメリットも期待できるでしょう。

キャリア自律支援を目的として、従業員の経験やスキルを活かせる場を作り、必要なスキルアップやマインドセットの成長支援を行うことは、従業員と企業とでお互いに良い関係性を築くことになります。

2.自ら考え行動できる人材の確保と定着率

変化の激しい事業環境において、自ら考え行動することができる従業員を確保・育成することが、重要な人事課題となっています。主体的な人材を育てる取り組みのひとつがキャリア自律支援です。キャリア自律が促進される環境では、従業員はキャリアを自分ごととして捉え、主体的・積極的に仕事に取り組むことができるようになります。

従業員が明確なキャリアの目標を設定し、具体的な行動計画を立てることで、必要なスキルを自ら学び、習得する意欲が生まれます。また、キャリア自律が高い人材は、自己を正しく認識し、自分の強みや成長のポテンシャルを理解しています。こういった人材は、自己理解に基づいてセルフマネジメントを行い、日々の業務でも成果に対して最適な行動へとつなげるでしょう。

一方で、キャリア自律が高まると離職率が高くなるのでしょうか?パーソル総合研究所の「従業員のキャリア自律に関する定量調査」によると、キャリア自律度と転職意向は相関しないことが明らかになっています。

もちろん、自分のキャリアを実現できる見込みが少ない環境では転職意向に影響しますが、キャリア自律を高めることが、ワーク・エンゲージメントや仕事の充実感につながるため、必ずしもキャリア自律を高めることが転職に直結するとは限りません。

キャリア自律支援の取組みとともに、職域開発や働き方の多様化への支援、ポジションの透明性、キャリア意思の表明機会など、キャリア自律とあわせて従業員が自分らしく働くことができる環境や仕組みを用意することが大切です。

 

キャリア自律支援の年代別の課題とは

キャリア自律は20代をピークとして、40代にかけて低下し、その後横ばいになります。

【出典】パーソル総合研究所「従業員のキャリア自律に関する定量調査 調査結果」

その上、調査では40代以上の約4割以上は、「自分の理想を描けていない」「何をしたら理想に到達できるのかイメージができない」と回答しています。

キャリア自律を支援する上での課題は、それまでどのようなキャリアを歩んできたのか、役職や事業環境、組織の影響だけでなく、人生観にも左右されるなど様々です。年齢ごとに課題を画一化できませんが、一例としてミドルシニア世代のキャリア自律課題例やキャリア自律を促すポイントをご紹介いたします。

40代

心理学者であるダニエル・レビンソンは、40歳~45歳を、自分らしさの模索や葛藤を通じて、真の自分を発見し、新たな道を切り拓く時期として、『人生半ばの過渡期』と表現しました。自分らしさを模索し、新しい道へ進むのかこれまでの道を軌道修正するのか、人生の道を軌道修正するのに数年かかる時期としています。

この時期に、自分の持ち味や強みを再確認すること、今後発生する社内外の変化に柔軟に向き合えるよう、新たなキャリアをデザインすることが大切です。

50代

50代は、キャリアの停滞(“キャリア・プラトー”とも呼ばれる現象)が顕著になります。長く働いてきたことで仕事がマンネリ化してきたり、与えられた仕事や責任が過大で目の前の対応に追われてしまい、本来発揮すべきリーダーシップや後輩の育成ができていないなどが原因です。

将来の働き方について広い視野で選択肢を考え、自分やチームに予期しない出来事への準備の必要性に気づくことと、ライフキャリアの視点も意識してキャリアを設計することが必要です。

60代

60代はキャリアの引退が近づき、仕事内容が変わり、組織での成すべき役割の認識が薄れ、自分のアイデンティティをどのように保つか悩む時期です。

仕事だけによらず、この先の人生をどういった軸で過ごすのかを考える時期だといえます。
ライフキャリアの視点を意識して、セルフモチベートポイントを探り、貢献領域を検討する必要があります。

 

キャリア自律を促進するためには

では、中高年層に対してキャリア自律を促すためにどのような支援を実施すると良いのでしょうか。本記事では、5つの施策を紹介します。

1.キャリア研修/キャリアデザイン研修

キャリアを考える機会は、これまで役職定年前の制度説明会など定年前の研修プログラムにマネープランやライフキャリアの一環として組み込まれることが多かったのですが、近年は、20代30代の早い時期から将来のキャリアについて考える機会を提供するようになりました。

新入社員から定年までのキャリア自律の全体像を描き、節目ごとに定点で研修の機会を提供することが増えています。

キャリアの課題は、役職や年代など属性によって様々なため、共通の課題を持っている方をグルーピングし、研修が実施されます。

また、相互に話し合うプログラムなど、グループワーク形式のキャリア研修も効果的です。同世代など共通の話題のある人と対話をする中で、自分では気付かない発見が生まれ、自分がより実現したいキャリアのゴールを設定できるようになるでしょう。

キャリア研修では、自身の強みや価値観、働く意義など、自己に対する理解を深められ、自分がどうありたいのかの視点と組織からの期待を合わせることで、内面からの意欲喚起、行動変容・強化・問題解決につなげることができます。

2. 部下のキャリアを支援する管理職向け研修

上司のマネジメント行動が部下のキャリア自律に与える影響は、期待の伝達、ビジョン共有、理解とフィードバックの3つ

【出典】パーソル総合研究所「従業員のキャリア自律に関する定量調査 調査結果」

1つ目に挙げたキャリア研修だけでなく、部下のキャリアを支援することを目的として管理職の行動変容を促す管理職向け研修も大切です。
1on1など上司と部下の間でキャリアについて話をする場を設けている企業も多いと思いますが、上司が、部下の意識・行動変容を促す役割の重要性を理解せずに、業務報告に終始してしまったり、現場が忙しく時間を確保できていないなど、課題があるキャリア面談も多いのではないでしょうか。

従業員のキャリア自律に関する定量調査によれば、上司のマネジメント行動が部下のキャリア自律に与える影響として、「期待の伝達」や「ビジョンの共有」「理解とフィードバック」の3点により、キャリア自律が促されるという結果が出ています。

従業員自身への取組みだけでなく、管理職向けの研修でロールプレイを盛り込むなど実践的なプログラムを行い、管理職の意識改革と行動変容を促す支援も大切です。

3.キャリアカウンセリング

自身のキャリアについて対話する機会を増やすことも重要です。対話する機会としては、キャリア研修などグループワークでの対話や、上司や人事部とのキャリア面談での対話、キャリアカウンセリングによる専門のキャリアカウンセラーとの対話の方法があります。

キャリアカウンセラーとの対話は、自分の内側で感じていることを話し、自己内省を深める方法です。自己内省を深めることで、実際に現在の状況と掲げている目標とのギャップを認識し、それが行動につながることでキャリアの自律を促すことができます。

キャリアカウンセラーの役割は、問題解決を自分ごとにする傾聴を基本とした会話、自己理解支援として興味関心の整理、目標や現状の明確化のコーチングなど、様々です。キャリアカウンセリングの機会提供もキャリア自律支援の取り組みのひとつです。

4.学ぶ機会の提供

2017年に行われた、「人生100年時代構想会議」(内閣府)で「何歳になっても学び直しができるリカレント教育」がテーマになるなど、リスキリングや学び直しは日本全体のキーワードとなっています。
また、自己啓発や自己学習への手当や支援金の制度、各種研修の手厚さによって、従業員のキャリア自律にプラスに働くことが分かっています。
自分が望んでスキルや知識を学べる環境があれば、自身の支援をしてくれる会社であるという認識をすることができ、会社への帰属意識が高まるでしょう。

5.越境学習や副業の機会提供

学ぶ人は学び、学ばない人は学ばないという偏りをいかに変えていくのかも大きな課題です。キャリアを振り返り、キャリアプランを描き具体的な行動を考える上で、学びへの動機付けを支援することも、キャリア自律支援の取り組みのひとつです。

実際に学び行動をしている人たちは、他者を積極的に巻き込みながら共に学ぶ、いわゆるソーシャルラーニングをしています。2023年にトレンドとなった「リスキリング」では、何をどう学ばせるかではなく、誰と学ぶか、誰とどうつながっていくかなど、他者との関わり合いをどう設計していくかが重要になっていくでしょう。

キャリア形成を考えるなかで、ミドルシニア世代に不足しがちなのは、社会関係(職場、友人、地域などでの持続的なネットワーク)といわれています。他企業や他組織とつながりをつくることを目的として、越境学習や副業・兼業の解禁を行う企業もあります。

実際に、「新規プロジェクトの起案・提案」や、「部門横断的なプロジェクトへの参加」「新規事業・新規プロジェクトの立ち上げ」などがキャリア自律にプラスに影響する調査結果も出ています。

また、パーソル総合研究所が実施した「副業の実態・意識に関する定量調査」では、副業をすることで、「本業に役立つスキルや知識が身についた」「新しいことを取り入れることに抵抗がなくなった」など、スキルやマインド面で、本業にプラスの効果を得られることが分かっています。

社外ネットワークが構築できるような施策を社内で用意し、社会関係資本を構築できるようにしていくことが、ミドルシニア人材躍進の解決策のひとつとなるでしょう。

 

ミドルシニア人材の躍進を支援する企業事例

ライオン株式会社様

ミドルシニア人材に、先に迫る人生を見据えて「キャリア自律」し、理想のライフキャリアプランを描けるようになってほしい。そんな思いからパーソルキャリアコンサルティングと連携し、積極的な取り組みを進めているのがライオン株式会社様です。

その背景にある価値観や具体的な取り組み、その結果などを、人材開発センターの稲原隆二氏に伺いました。

―インタビュー抜粋
「テレワークやフルフレックスなど、物理的なワークスタイルの改定と併せて、「自由な働き方を実現するためには、キャリア自律が必要」という考えのもと、社員がキャリア自律して最良な働き方を見つけていけるよう、セミナーやキャリア相談などを体系化する取り組み(キャリアデザイン・サポート)を始めました。」

「今現在の50代の社員がシニア層になったとき、シニア人材としてどれだけ活躍してくれるかがキーポイントです。そしてその方たちがさらに5年、10年と働くであろうことを見据えたときに、『自分たちで自分の道を決めてもらう』という支援は必要だと考えています。」

→ライオン株式会社様の事例

 

まとめ

労働人口の減少やそれぞれの価値観の変化によって、キャリア自律が求められる今の時代に、企業がキャリア自律の促進のサポートに取り組むことで、従業員自らが主体的に考え、学習意欲の向上や、ワーク・エンゲージメントが高まるなど、組織の活性化を期待できるメリットが多数あります。

そのためには、管理職社員への理解を促すことや、キャリア相談窓口を設置するなど、企業がキャリア自律の促進する環境や仕組みを作ることが重要です。

社内のキャリア自律の見直しに苦労されている企業人事部の方や、従業員のキャリア開発に取り組まれている役職の方、ミドルシニア世代の活性化について情報収集中の方など、キャリア自律に関して、お困りのことがございましたら、ぜひ弊社にご相談ください。キャリア自律の全体像を描くところからご支援させていただきます。

キャリア自律に関する調査レポート資料も無料でダウンロード可能です。

 

(出典)
・パーソル総合研究所「 労働市場の未来推計 2030
・パーソル総合研究所 「 グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)
・パーソル総合研究所「 働く10,000人の就業・成長定点調査
・パーソル総合研究所「 従業員のキャリア自律に関する定量調査
・パーソル総合研究所「 第二回 副業の実態・意識に関する定量調査

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